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大阪簡易裁判所 昭和56年(ハ)5528号 判決

原告 ○○××党

右代表者委員長 甲野太郎

被告 乙山株式会社

右代表者代表取締役 丙川春夫

右訴訟代理人弁護士 間石成人

同 中山晴久

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1  被告は原告に対し、金五、〇〇〇円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(予備的請求)

被告は原告に対し、別紙目録記載の新聞を返還せよ。

二  請求の原因

(主位的請求原因)

1  原告は、政治資金規正法に基いてその届出をした政治団体であるが、原告はその政策なり、主義・主張を訴えるため、機関紙「××」を毎月一回定期的に発行している。

2  被告は原告に対し、昭和五一年六月七日、右機関紙「××」新聞の購読を申込み、その購読料として年二回(五月と一一月)各五、〇〇〇円を支払う旨約した。

その後原告は被告に対し、右「××」新聞を昭和五六年一一月分まで送付し、被告は昭和五五年分まで年二回及び五六年上半期分まで各五、〇〇〇円を支払ってきたが、五六年下半期分(七月から一一月まで)の購読料五、〇〇〇円の支払をしない。

3  よって、原告は被告に対し、右購読料五、〇〇〇円の支払を求める。

(予備的請求原因)

右購読料の請求が認められないときは、原告は被告に対し、別紙目録記載の新聞の返還を求める。

三  理由

(主位的請求原因について)

1  請求原因1の事実は記録上明らかである。同2の事実中、「××」新聞が原告から被告に送付された事実、及び被告が原告に対して、昭和五五年まで年二回各五、〇〇〇円が支払われてきた事実は、いずれも当事者間に争いがない。なお被告は、××出版社に対して支払ってきたと主張するが、同出版社は原告の機関であるから、争いない事実と認める。次に被告が原告に対し、「××」新聞の購読を申込み、それに対して年二回各五、〇〇〇円を支払う旨約した事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

2  そうすると、被告が原告に対して、昭和五一年から同五五年まで、五年間にわたって年二回各五、〇〇〇円ずつ支払われてきた前記金員はどのような性質のものであるかである。以下この点について判断する。

《証拠省略》を綜合すると次の事実が認められる。

原告の機関紙「××」新聞は、原告××党の結成された昭和五一年から発行し、当初は年四回の発行で一部一、〇〇〇円であったが、昭和五五年四月から毎月一回発行するようになり、一部五〇〇円に値下げした。新聞の紙数は四頁で、内容は原告××党の宣言、運動目標など、原告の政策なり、主義・主張に関するものが多く、一般的記事に乏しい。購読料は一部一、〇〇〇円又は五〇〇円であるが、これは党(原告)の目的や、活動に賛同して寄附という意味も含まれている。被告が原告に支払っていた金額と、購読料の金額とが符合しないが、これは党の運動に対する協力金も含まれている。被告会社が原告に支払っていた金員は、被告会社では「賛助料」ということで支払われていた。

以上の事実が認められ、これらの事実を綜合すると、被告が原告に支払っていた右金員は、前記「××」新聞に購読料として一部五〇〇円、又は一、〇〇〇円という表示がなされ、たとえ購読料という名目であったとしても、それは特段の事情の認められない本件においては、その実質は被告主張のとおり、原告××党に対する寄附金であると解するのが相当である。即ち被告が、昭和五一年から同五五年まで原告に支払ってきた金員は、政治資金規正法四条三項にいう、政治団体である原告××党に対する金銭の供与であるから、原告の主張するように、新聞の購読とは対価の関係にはないものと解すべきである。

そうだとすると、原告が昭和五六年度下半期分の「××」新聞を被告に送付した事実があるとしても、その購読料名下に、被告に対して寄附金の請求ができないことは論ずるまでもない。

(予備的請求原因について)

前記認定のように、原告の「××」新聞の送付と、被告の寄附行為とは対価の関係にはなく、被告が右新聞を受取りながら、原告××党に寄附をしなかったからといって、何らの債務不履行にもならないのである。したがって原告が被告に対し、購読料の支払請求が認められない場合は、原告がすでに送付ずみの前記新聞の返還を求めるというのは、法的根拠がないばかりか、社会通念上からも妥当性を欠くものといわざるを得ない。

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 中尾文男)

〈以下省略〉

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